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<▼秋戸みのりが雨の降らない街中で開く傘の表現と降り急ぐ声への断章


2008/2/4

 1.

 照明が落とされると、闇は招待客を匿名の集団にあつらえてしまう。会場を満員にした影たちはひそとも声をたてず舞台を凝視するのだった。
 影たちの視線を辿る――壇上にはマイクが一本備えつけられていた。青系統のライトがホリゾント幕をたよりなげに浮きだたせる。
 袖から一本の傘が歩いてきた。
 傘はマイクの前で一礼した。(人間で言えば頭にあたる)石突をちょいと下げただけである。影たちには気を悪くした様子もない。あまり深くおじぎすると傘が顛倒してしまうことを察しているのだろう。
 紙が破れるような音、そして壇上に見事なトライアングルが出現した。影たちが感嘆のためいきをつく。傘は自身を【開いて】みせたのだった。
 その姿は、猛禽類が翼を広げていましも空へと駆けのぼろうとする威容を思わせるほどであったが、やりなれぬことであったのだろうか。よく見ると一本の親骨が外れて布に皺がよっていた。
 季節を間違えて出てきた蛍に対する野次馬的な視線を受けとめながら、傘は聴衆に語りかける。
 「どうも……。みなさん、はじめまして……。
 ごらんになればわかるとおり、僕は傘です。
 傘にもいろいろありますが……。日傘、洋傘、雨傘、和傘、唐傘、紳士傘、こうもり、パラソル……僕はしがない雨傘です。材質はビニールで色は透明、工場生産されて使い捨てされる運命の……ごくごくノーマルな品種です。 犬でいえば雑種、人間でいえば東京に住んでる二十歳のフリーターといったところでしょうか。冗談ですよ……やだな、こんなことで怒っちゃいけない。
 もっとも……出自をどう並べたところで、根本的な種族としては僕ら、みな同じなわけです。下町職人の手で一日一本限定で造られようが、東南アジアの工場で大量生産されようが……。たとえオランダの露店でひげ面のアルメニア人に売られていたって、関係ないんです。
 僕らは傘だ。傘としかいいようがないでしょう。えっ? いやあ、不満なんじゃありません。不満なわけないじゃないですか。ただ、僕らは、傘であり、傘以外のナニモノでもない……それだけ最初にお断りしたかったわけで……つまらない前おきはやめましょうか。どうも、いきなり呼びだされたもんだから……。名スピーチは期待されたって、できっこないな。ま、かんべんして聞いてもらうしかありません。
 傘と人間とのかかわりあいを話しましょうか。
 傘を上手に使ってくれる人間。それを思うとき、僕の頭には、ひとりの女性が浮かびます。
 メリー・ポピンズ。
 彼女にこそ、パラソル界の名誉功労賞を献上すべきでしょう。空から降ってくるベビーシッター。彼女は傘を翼のかわりとしているんです。【これぞ発想の勝利だ!】と当時の傘たちは快哉をさけんだといいます。映画を観て僕も納得がいきましたね。考えてもごらんなさい。 あれがパラシュートで迷彩服をまとって降りてきたり、背中に生えた悪魔の翼をはばたかせて降りてきたりじゃ、興ざめですからね。傘を片手に小粋に降りてくるからこそ魅力的なんだ、という意見には、みなさんも同意してくれるでしょう。
 【Supercalifragilisticexpialidocious!】というポピンズ氏のセリフは、いまじゃ傘であれば大抵のやつらは暗誦できるくらいです。嘘じゃない。
 あの映画によって傘に明確な空想性が付与されたわけで……空を渡り歩くためのファンタジックな道具というイメージが定着したのは間違いないんです。その点で僕らはポピンズ氏に多大な恩がある。
 ところで、みなさんにおたずねしたい。ひとつの家庭で所持している傘の数は一体どれほどのものか……ごぞんじですか。
 洋傘タイムズの調べによると――おどろくべき、実におどろくべき結果だ――約14.2本の傘が一世帯に存在しているというのです。使用していない傘は、そのうち約6.1本もあるという。なんという数だ。少子化がすすみ、一家庭あたりの人口は減ってゆく一方、道具だけが頭数を増やしていく……。
 現代の一家庭は、大量在庫を抱えこんだ傘の倉庫であり、消費者の見つからないまま繁殖し続ける傘の養殖場というわけなんです。良いも悪いもない。僕らは増え続けている。それが現状だ。
 それほどに繁殖をとげた僕らですが、どこでもチヤホヤされているというわけじゃない。自衛隊や警察では【公務が果たせない】という理由からいまも傘の使用が禁じられている。また性差が壁となっているのは、みなさんもごぞんじでしょう。十八世紀にロンドンで傘を使ったジョナス・ハンウェイは【女々しいやつだ!】と人々から嘲笑されたというし、現在でも日傘などはおもに婦人の持ち物という認識が強いのです。男用の日傘も企画にはあがっていますが、普及するにはまだまだ時間がかかるでしょう……。
 どうも、話がそれてもうしわけないですが……。【扇はかなめ、傘はろくろ】というけど、僕の話にはろくろが入っていないようですね。面目ない次第です。なにぶん、いきなりのスピーチでして……ご寛恕を……」
 口ごもり、傘は額の汗をいそいでぬぐった。
 影たちは苛立ちも騒ぎもしないかわり、熱心さからほど遠い顔つきで壇上を見あげている。牛のように倦んだまなざし……
 突如、暗い場内に爆弾が相ついで落ちてきて影たちの鼓膜と皮膚を大音量でおびやかしたが、ひとりの死者も怪我人も出さずに済んだのはそれが爆弾ではなかったからで、台風の中で帰宅を急ぐ車のサンルーフを子供がいたずらで開けてしまったのにも似た惨事からはそれでも免れることができなかった。
 スタッフが誤って開閉スイッチでも押してしまったのだろうか――首をうなだれた照明器具が稲穂のように垂れ下がっていたはずの天井は大きく開かれ、四角く区切られた曇り空が厚ぼったい顔をのぞかせていた。
 大粒のつめたい雨はそこから落ちてくるのだった。
 座席に腰を落ち着かせた影たちは慄えている。洪水で誰も近づけない中州に取り残された家畜。水をためた風呂場に落ちた鼠。
 だが、かれらは逃げ場のない動物ではない。いますぐ立ちあがり、そうして出口に向かえばいい。広いロビーでは赤々と燃えるストーブが室内を快適な温度にたもち、濡れそぼった身体をあっという間に乾かしてくれるはずである。
 影たちはひとりも立ちあがろうとしない。上空からはごろごろと神々の唸り声が聞こえてくる。足許の水位がゆっくり上昇しはじめた。
 傘は壇上で蒼ざめ、ついで一気に赤らんだ。興奮のためである。
 傘は人間と使役関係にある。共存ではない。奴隷でもない。使い、使われる、動的に活用される道具としての宿命である。それを想うとき、傘の身は悦びに燃える熱をめぐらせるのだった。
 矢をつがえるような動作で下ろくろを押しだされ、止め鋲にかちりとはまりこむ刺戟……それから受骨と親骨がしゃくとり虫のように精緻な運動をしめすと、どんな水滴も寄せつけない遮蔽物となるのだ……。
 人間の手によって乱暴に、あるいは繊細に開かれる瞬間のあのざわめきを、傘は甘い疼きとともに思いかえした。
 そしていま雨に打たれてなすすべもない影たちの姿は、無限の快楽の可能性を連想させる……。傘は狂喜に踊りだしそうになった。
 もし問題があるとするならば、需要と供給の割合がまったく釣りあわないというくらいのものだろう。
 この講堂には五百人の聴衆がいるのに、傘は自分ひとりだけしかいないのだから……。それすら傘には贅潤なハーレムとしてしか映らなかったのだが。
 「誰でもいい、さあ使って! さっさと僕を開きなさい。何を、ぼんやりしているんです!」
 マイクを蹴たおし、傘は最前列の席に近づく。
 「残念だが……実に残念だが、スピーチは終わりにしましょう。事態が事態だ、いまは一刻も早く憎い雨から身を守るべきだ。そうでしょう。幸いにも僕というシャヘイブツがここにある。さあ、存在を開いてください! 僕という性質を差すのは誰だってかまわないんだ!」
 天井が開いたことで深刻な人工の闇は失せたが、依然として影たちの周囲は顔色もわからぬほど閉ざされており、ぼたぼたと水滴にまみれながら誰もが静まりかえっている。
 傘は激昂した。影たちの態度は傘には思いもよらぬことであり、また信じがたいことだった。
 「目の前に傘がありながらびしょ濡れになるなんて、そんな馬鹿な! ほんのすこし、手を伸ばせばいいんです。なにも数時間かけて山登りしようなんていってるわけじゃない。そんなこと、僕だって御免ですからね! しかし、なぜ、あなたたちはそれほどガンコなのですか? 僕が、まさか、見えていないのですか?」
 影たちは立ちあがった。全身をつつんだレインコートの衣擦れの音が激しい雨音に加勢するように鳴った。飛びちる水しぶきが、影たちの輪郭を蜃気楼のように強調する。
 かれらの眼は人間と手を繋ぐことのできる傘への憎しみでぐっしょりと濡れているように、映った。


 2.

 傘はなくてもキミには逢いに行けるらしい。もっともかなりの犠牲は要する。全身を水浸しにされるのだから。

 都会では自殺する若者が増えている
 今朝来た新聞の片隅に書いていた
 だけども問題は今日の雨 傘がない

 行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ
 君の町に行かなくちゃ 雨にぬれ
 冷たい雨が 今日は心に浸みる
 君の事以外は 考えられなくなる
 それはいい事だろ?
 (井上陽水"傘がない")

 けれど傘がなくちゃ晴天だって歩けやしない。そんな日もある。他人の声のどしゃ降りは、傘一本じゃとうてい防げないとしても。


 3.

 傘を主体にした場合の行動規範は、天野こずえ『浪漫倶楽部』の第二話「雨のロンド」に則って考えることが多いです。
 杖のようにかしこまってる傘、すてき。でも開いたらキミはもっとかわゆくなるよ。ほんと。


 4.

 ユーキはヘッドホンを奪われたら外を歩けなかった。他人事とは思えない症状。
 自分とだけ手を繋いでいる内界生活者のシュプレヒコール「外が苦手なら装置で遮断してしまえ。自分専用の遮断機を持つこと。さしあたっての我々の急務はそれだ」
 こうして音楽好きもそれほどじゃないやつも、ヘッドホンを着けたらいつでも外を歩けるようになった。……そうじゃないかな。自分の匂いがするもの、自分の部屋の要素、それがヘッドホンないしはイヤホンから流れてくる音楽に還元されるから、横断歩道を渡っていても取り乱さずにいられる。
 「外界の音色を聞き取れないなんて損なことだ。たまには【耳栓】を外して、町へ出よ」そんな風に尊敬していたひとは言った。 でも往復五分もかからないコンビニに行こうとして、その間BGMに流す曲に悩んで十分経過してしまっている自分に気付くたび、【耳栓】を外して出歩くのはむつかしいことだなぁ……眼をぐいぐい揉みながら、そう思う。
 傘を手放せない子たちも、おんなじ気持ちなのだろうか?


 5.

 衛藤ヒロユキの感性を愛しく、いじらしく思いすぎる自分は、「がじぇっと」に対してもこんな妄言を語ったんだった。

 傘は雨を防ぐ壁で。
 人の声まではさえぎれない。
 それでもみのりちゃんは傘を、人の声まではさえぎれる筈の無い傘を目いっぱい大きく広げようとする。願って、試みるんだ。「もっとこのカサが大きくなればいいのに」って。その心をどう思おう。 傘を先のとんがった「槍」に見立ててふざけてチャンバラごっこしてガキの横で、雨の無い日にも傘を広げて歩くみのりちゃんの心を。人の声の粒はビニール傘なんか貫いて容易に侵入してくるのに。

 晴れた日の大通りを歩くとき、胸のうちに、いつもみのりちゃんの姿がある。
 彼女のようにキカイの傘をわたしは手にしてはいない。でも架空の傘はちゃんと頭のうちにしまいこんである。
 わたしはそれを【うつろ傘】と名付けた。
 透明で、陽に透き通るように光って、ゆれていて。他人の声も顔も、やわらかく吸い取ってくれる。
 誰にも見えないその傘を差して、休日にわたしは歩いた。
 あちこちにらみつけながら。

 或る者は【列外】、或る者は【反儀式主義】、或る者は【流刑】、或る者は【架空凝視】と、生きることに対する苦し紛れの姿勢をいろいろな呼び名で表した。
 乱反射する他人の視線の中で少しムキになりながら、わたしは【うつろ傘】と名付けたやり方で、せめてささやかな反抗の姿勢をとってみたいと思う。いつか、骨は折れてしまうだろうが。






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